金曜日はキライ。


りくちゃんが高校卒業と同時にバイトをやめることを知ったのはその日のバイト中だった。

弓くんもりくちゃんもやめるなんて淋しくなるよなー。バイトの募集かけなきゃなーって店長がぼやいているのをたまたま聞いてしまったんだけど。だけどとてもびっくりした。大学に行かないことは聞いてたけど、それでもしばらくはバイトも続けるんじゃないかなあって勝手に思ってたから。



「今日の店長の話ほんとう…?」


ふたりで休憩に入った。確かめるのがこわいのを隠しきれてないような声で聞いた。なんだか本気で泣きそうになる。


「やだ、10月に入ったばっかりだよ?卒業って3月だよ?まだ先のことなのにそんな泣きそうな顔しないでよー」

「だって…りくちゃんがいないとわたし…」


酔っ払いも追い払えないし、他の人とも話すけどやっぱりこの人が一番なんだ。


「まほちゃんならダイジョーブだよ。ね?」


おねえさんみたいな口調でりくちゃんが言う。


「どうしてもやめちゃうの?別のところで働くの?」

「うーん。まだ全然進路決めてないんだけど、とりあえず、この町出たいなって思ってるんだ。また詳しく決まったらちゃんと言うね。まだまだ先のことだしこれからもよろしく、まほちゃん」



りくちゃんのことは、実はよく知らない。男の子の親友がいて、水泳部で「日焼けしたからだがきらいだから」って人前では絶対着替えないこと。笑顔がかわいいこと。お仕事ができるところ。勉強は苦手なこと。楽しいことが好きなところ。そのくらい。


この町を出たいなんて知らなかった。だけどその理由に踏み込むことはできない。

誰にだって何かひとつくらいひみつはあるものだって思ってる。


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