金曜日はキライ。


「清雨が野球選手になりたかったなんてちょっとびっくりしたんだ。ほろちゃんは知ってた?」

「ううん、夢だったことはさすがに知らなかったけど…野球が好きってことは知ってたよ」

「そっか。あ、日葵もいる」


そうだね。そう言うと志保梨ちゃんが頭を撫でてきた。

どこまで気づいてるんだろう。日葵も常盤くんも人には話してないと思うんだけど、やっぱりわかる人にはなんとなくわかるみたい。仲良しだけどそれだけじゃない雰囲気とか。

千昂くんは一緒じゃないんだ。



「ほろちゃんって、清雨のことどうして好きになったの?」


てっきり志保梨ちゃんがしかけてた話の続きをしてくれるんだと思ってたけどそうじゃなかった。わたしの話をする流れができあがる。

すごい自然で、人との会話ってこうやって作ってくんだなあって勝手に感心してしまう。


「好きになった理由…」


あの日、もしも雨がやまなかったら、わたしが常盤くんのあの姿を、あの表情を、あの気持ちを知ることはなくて

そうしたら、こんな想いを抱くことなんてなかったんだろうって思ってた。そう、思い込もうとしていた。



息が詰まる。


常盤くんの、好きなところ…。



ゆっくりとあの日の出来事を話してみる。誰かにするのは初めてだ。


お天気雨が虹へとあがって、お気に入りの赤い傘を閉じてそっと顔をあげた。空のにおいを吸いこもうとしたとき、頬にぽつりとなにかが落ちた。

冷たい雨の残り粒だと思ったけどちがった。

見上げた先に常盤くんの姿。泣いていた。ちょっとだけだけど、瞳は濡れていた。虹の色も、においも、風も、何もかも見えてないような色の無い瞳が向けられたところには日葵と千昂くんが並んで歩いていた。


わたしの頬に落ちたその涙を言うなよって、安心させるみたいに嘘っぽく微笑んだ。


それが、はじまり。はじまりだったはず。

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