金曜日はキライ。


大きな風が何度も吹いていた。寝坊した日葵を置いて先に学校に来たことを後悔して立ち止まっていたあの桜の木の下。

落ちてくる花びらがまるで雨のようだった。


そんなとき、後ろから突然傘が差し出されたんだ。


遮られた花嵐。ビニール傘にむかって淡い桃色がこぼれてく。

驚いて振り返ると、見覚えのない男の子。


「あ。やべ、おれ変なことした」

「あ、あの」


すぐに傘をたたんで、わたしを見て申し訳なさそうに微笑む。人懐っこい印象を受けた。なんとなく日葵みいたいで、人気者なんだろうなあって。


「なんか桜が雨みたいに見えて、つい」


そう呟くようにこぼして、もう一度謝る。でも、わたしにはその謝罪がよく聞こえなかった。


「わたしも、雨みたいだと思ってて…そうしたら傘が飛び込んできて、びっくりしました」

「あー、だからおれにも雨に見えたのかも。人に影響されやすいんだよね」


彼は自分の欠点を話すような声のトーンでそういったけど、わたしにはとてもいいことのように思えた。


「人の気持ちが、わかるんだね。すごい」


きっと優しい人だと、名前も知らないのに勝手な印象がどんどんくっついていく。

彼は照れくさそうにしながら「そんなことねーよ」って呟く。


「わかんねーことばっかだよ」

「そうなの?でも、今のようにしてもらえたら、うれしいよ」

「そう?」

「うん」

「そうかー。ま、相手がきみみたいに素直じゃないから、どうかな」


爽やかな表情が変わって、困った顔。ころころ感情が変わる人だなあ。


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