金曜日はキライ。
和央先生が見守っていたらしいあのシーン。かっこわるい感情になりたくなくて桜の花びらの色を思い出すことをやめた。
それでも常盤くんとうまく話せない自分に気づいた。目が合っても頷くだけ。話しかけられてもしどろもどろになっちゃって、言葉なんてぜんぜん出てこないの。笑っちゃうよね。日葵は人見知りだからって思ってるけどちがうんだ。ちがうの。
逃げたはずの気持ち。奥底にしまいこんだ気持ちが、しまいきれなくて。
自分が自分じゃないみたいだった。そんなのはじめてだった。
そんな時──── 常盤くんの涙を見た。
見つめる先はあのふたりだったから、ああ、まだ好きなんだろうなあって。
何か理由があってこんなふうになっちゃったんだろうなあって。
そう思うとくるしかった。かなしかった。常盤くんがひとりぼっちで泣いてたこともそうだし、日葵のこと、やっぱり好きなんだって思い知ったのがつらかった。
けっきょくわたしは自分のことばっかり。
だからせめて。
「誰よりも幸せになってほしい…」
それだけでいいって思い込みたかった。
「それなら、ほろちゃんが幸せにしてあげればいいよ」
親友の好きだった人だとか、親友のことまだ好きだって思ってる人だとか、そんな人を好きになっちゃったとか、たしかにそれが足かせになってたのも事実だけどそれだけじゃない。
自信がなかった。
わたしには無理だって思ってあきらめていた。何もできないって、常盤くんとわたしは正反対だからって、何かと言い訳をつけては逃げ回って。
「今はどう転ぶかわかんないけどさ、とりあえず。きっとよろこぶと思うよ。そういうやつじゃん」
「…うん、知ってる」
押し込めても隠してもわすれられなかったこと。
それ以上に、守りたいと思ったこと。
常盤くんのことが好きなこと。
もうこれ以上嘘つきたくない。言い訳したくない。
そう思わせてくれたのってきっと、生意気でかわいくて誰より誠実なあの男の子のおかげだった。