金曜日はキライ。


弓くんの腰に巻かれたエプロンの隅っこが赤く染まっていく。

包み込まれた指が、優しさに耐えきれないとでも言うかのように熱くなっていくのがわかった。


「誰だって失敗とか、あるだろ」


痛い。ずきずきって。怪我したのは指なはずなのに、ちがう場所が痛い。


「あるけどわたしは本当にだめで…。弓くんのエプロン、よごれちゃうからもう離して…」

「べつにいーよ。もう数日で使わなくなるんだし、自分のこと簡単に責めんな」

「…っ」


行かないでって引き留めたくなる。



「茉幌、俺がいなくて大丈夫なのかよ」



大丈夫じゃないって、言いそうになる。言いたくなる。言えばここに残ってくれる気がする。


「あ、止まった。ここやっとくから念のため傷バンド貼っとけ」


弓くん、絆創膏のこと傷バンドって言うんだ。かわいい。なんか、弓くんはなんでもかわいい。わたしとぜんぜんちがう。なんでも良く聞こえてくる。


「まほちゃーん掃除道具持ってきた…げ!弓きゅん!」

「きゅんってなんだよ。うぜえ。りく手伝え。茉幌は裏行け」

「うぜえってなによう!」


りくちゃんと言い合いを始める。そんな中で、わたしの背中をぽんと押す。

だから立ち上がって言う通りに絆創膏を貼りに行くしか選択肢がなくなるんだ。本当はわたしのせいなんだからわたしが後片付けをしなきゃならないはずなのに、そういう選択肢を弓くんは奪う。


わたしにはもったいないくらい優しくって。

大事にしたかった。

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