金曜日はキライ。



「ねえ弓くん、今日も星がきれいだね」

「明日雨らしいけどな」

「そうなの!?体育外なのに」


他愛のない話も、弓くんとならうまくできた。

そういう時間が楽しくて、いとしく思う。それってわるいことなのかな。だめなことかな。きっとそうなんだろう。


誠実から遠ざかってる。


それって、きっと、弓くんからも遠ざかってる。

そんなの嫌だ。
きみは、わたしの、なりたいひとだよ。



「…まって」

「え?」


「話たいから、ちょっと止まって…っ」



川沿いの急な坂を下っている途中。風に泳ぐ黒髪を遮るように声をかけた。


「…ヤだね」


何かに気づいたみたいに、そんな意地悪い言葉が返ってくる。さっきまで自転車は半分くらいブレーキがかかっていたのに、それが緩んでスピードがあがってくのを感じた。

いつも安全運転だったのに…!


「ちょ、弓くん、速いよ!」


いくらあまり人がいない道路だからって危険。何かあったらどうするの。心臓がばくばくする。


「弓くん!」


いっこうに止まってくれる気配がなくて、思わず後ろからブレーキに手を伸ばす。


「は!?おい、バランス崩れ───」


弓くんの手がやっとブレーキを握ったのが見えた。ぎゅってした。

だけど自転車は右に傾いてく。


またわたしのせいだ。でも弓くんだって危ないことをした。

倒れていく感覚の中でそんな責めるような気持ちになった。こんな時に生意気を出さなくたっていいじゃない。ばか。


「茉幌っ」


焦ったような声。そういう時、低い声はちょっと明るくなるんだと知った。

伸びてきた弓くんの手を掴む。なんとなく引き寄せられたと思った瞬間、体に衝撃が走った。


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