金曜日はキライ。
タイヤがカラカラと回る音が遠くで聴こえる。それよりも近くで、ばくばくしてる心臓の音が聴こえる。
ちょっと痛む上半身だけを起こすと、わたしのことを守るみたいに弓くんが下敷きになって倒れていた。びっくりした。「いって…」って声が発せられたから、生きてることだけはわかる。
「ゆ、弓くん、痛い?頭打った…?ねえ大丈夫?」
怪我とかしてないよね?そう思って見渡してみる。血は出てないみたい。川沿いの芝生に倒れこんだのが幸いだったのかもしれない。
わたしの心臓もばくばくしてる。だって、プチ事故だ、これ。本当に危なかった。
「大丈夫…茉幌は?」
「わたしは大丈夫だけど…あ!手首とかは大丈夫!?料理できなくなったりとかしないよね!?」
思わず右手を掴む。弓くんの手。だけどどうやって無事を確かめたらいいのかわからないでいると、ふらふらと手のひらが目の前を舞った。
「へーきみたい。ばか、なんで後ろからブレーキかけようとすんだよ」
「だってあれは弓くんが…っ」
「おまえ乗せてんのに無茶するわけねえじゃん。なのに…心配性すぎるんだよ」
「な…」
あんまりだ。今のはあんまりだと思う。心配して何が悪いの。ひどい事故にあって弓くんがどうにかなっちゃたらって思ったら、自転車止めなきゃって思って…。
きらい、だ。
「弓くんのこと、きらい」
「ふーん」
「だい、きらい…っ」
頭を撫でられる。優しい手。怪我しなくて本当によかった。
弓くん。手放したくなかった。きみみたいな人と、ずっと仲良くできたらって思ってた。
だけどそんな自分都合なこと、できない。
だって、きみの気持ちがよくわかる。