金曜日はキライ。


弓くん。この手に何回も助けてもらったよ。今だってそう。

なのに嘘ついて、またイイコぶろうとして、ごめんなさい。


「もっと、大切にしたい気持ちがあるの。誰よりも好きな人がいるの」

「…あっそ」

「だから…だから、ごめんなさい。弓くんの彼女には、なれないです」


弓くんと付き合える人はきっと、幸せなんだろうなあって思ってた。一途で、優しくて、誠実に自分のことを自分以上に見てくれる、そんな人だから。

だから、自分がそんな存在になれるかもしれないって思った時、うれしかった。今までで一番幸せな女の子になれたような気がした。


だけど、欲しいのはその幸せじゃない。

弓くんを傷つけても、常盤くんへのこの気持ちを大切にしたい。


「最初からそう言えよな」

「う…」

「イイコぶんな。頼むから、もっと自分のことも考えて」

「でも、」

「おまえの一言二言で一生の傷がついたりしねえからさ」


弓くんの手が、きゅうっと強くなって、そう思った瞬間に離れた。



「どーもな」


夜に溶けそうな黒髪の隙間で、笑った。笑ってくれた。


「なんで…」

「言いたくなっただけ」



この人からもらったもの、教えてもらったこと、ぜんぶ忘れない。これから先もずっと。


「ありがとう、弓くん…」


そう言うと、おでこを指で弾かれた。ひんやりと、優しい体温。


「じゃー、次は明後日か」

「…うん」

「今日は送るけどこれからは送らないからな」

「…わかってるよ」


もう涙はぬぐってもらえないけど、自分でできる。


「でもなんかあったら絶対呼べよ」


心配性はきみのほうだ。


「ありがとう」


うん。でももう呼べない。手放してしまった。だけどこれが一番きみに近づく方法だった。わたしが見つけた一番最初の答えだった。

夜空の星は曇っていく。明日の雨の準備をしていた。


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