金曜日はキライ。
一緒にバイト先に来てくれた時は志保梨ちゃんのいいところをたくさん話そうと思う。初対面の人とうまく話せるかわからないけど志保梨ちゃんのために全力を尽くしたいと思ってるんだ。その時はりくちゃんのことも巻き込もう。
「露木、またなんか和央に頼まれたの?」
突然に聴こえたその声に、持っていたプリント類を落としかけた。
「と…きわ、くん」
「…げ。また補習かよー」
ホチキス留めが終わってちょうど常盤くんの机に置こうとしてたプリントの先が震えてるのは、わたしの指先が震えてるから。
どうしているの。友達と遊ぶんじゃなかったの。
「放送聞いて手伝えることあるかなって思ったんだけど、さすが。仕事早いなあ」
なにか、話さなくちゃ。
なんとなくそう思って口を開く。
「わ、和央先生がね」
さっき常盤くんの話をしてよかった。それにしても、思い返せば、和央先生はよくわたしに常盤くんの話をする。
「清雨は、ちゃんとテストの用紙と向き合えば解けるのになーって言ってたよ」
「ははっ。なんで目がついてないやつと向き合わないとなんねーんだよな」
「………」
わたしは目がある人とも、向き合えてないよ。
「…ちがうわ。おれ、目も心臓も声もあるやつと、向き合えてない」
「え?」
「これ、露木のだよな」
そう言ってブレザーのポケットから出てきたのは、見覚えのある赤いタオルハンカチ。
常盤くんが倒れてた日に貸したものだ。
「どうして……」
わたしのだってわかるの。
「前に海野に貸してた。おれも借りたことあるし。…それでなくてもわかるよ。露木の小さい持ち物、全部きれいな赤だから」
なんで、知ってるの。
「ごめん、あの時。声似てて駒井かと思った。…や、思いたかっただけかもしれない。本当に、ごめんな」
ふたつの目は真剣な色を帯びたかと思えば、見えなくなった。