金曜日はキライ。
代わりにいつもは高いところにあって見えないつむじがこっちに向く。
ごめん、だって。抱きしめたことかな。名前を呼び間違えたことかな。
「わたしも…日葵のふりしてごめんなさい」
誰だと思われてもいいと思ったけど、もうそんなこと思わない。というかあの時だって本当はそんなこと思ってなかった。常盤くんが本当はわたしだってわかっててそれでも抱きしめてるんだったらいいのにって思ってたよ。
でもそれを責めようとも思えないんだ。
だけど、いいよって言いたいのに言えない。
小さなつむじはこっちを向いたまま。
「常盤くんは…」
顔、見えない今なら。
「まだ、日葵のこと、好きですか…?」
聞ける。そう思って聞いたけど、情けないくらい頼りない震えた声だった。
こわかったけど、それでも知りたかった。
まだ好きだったらどうしよう。どうしたらいいんだろう。それでもこの気持ちを貫くのか、それともあきらめるのか。あきらめるとしたらどうやってあきらめたらいいんだろう。
もう好きじゃないって言われたら?そうしたら告白できるの?そんな勇気がわたしにある?
何も考えてなかった。考えてたけど、答えはまだ見つかってない。
それでも聞いてしまった。もう時間は戻らない。
常盤くんが静かに顔をあげた。
こんなふうに目を合わせたことも、向かい合ったのも初めてかもしれない。
「あのさ。露木は覚えてないみたいだけど、おれたち、駒井から紹介される前に一回話したことあるんだよ」
「え……」
頭に浮かぶ、柔らかな淡い色。
わたしの恋をたとえるなら、それはもう、はっとするくらいの桜色。
「その時のことがわすれられない」
常盤くんが、まるでわたしのこころの中を音読するかのように、同じような気持ちを声にしていく。