金曜日はキライ。



「だから、この前、びっくりした。気づいたら露木のハンカチを握ってたから。助けてくれたのが、あの露木だったから」


常盤くんは視線を自分の手のひらに落とす。


「露木の手、すげー小さいのに、強く握ってごめんな」


ああ、また、常盤くんに謝らせてしまった。

これ以上、静かに聴いてるのは、間違ってる。自分の気持ちを言わなくちゃ、だめなんだって、常盤くんに恋をしてやっと知った。


「折れるくらい握られてもよかったんだよ」

「なに言って…」

「常盤くん、わたし、憶えてるよ。桜の嵐も、常盤くんが見せてくれたとびきりの笑顔も、今みたいな秋になったら会いにきてくれるって約束も」

「…うそだ」

「ううん、憶えてる。だってわたしも、大切にしたくなるような時間だったから」



言っていて恥ずかしくなった。これが自分の気持ちを伝えるってことなんだ。


「常盤くんに人見知りしたこと、本当はないの。はじめて会ったときあまりにもスムーズに言葉を返す自分に戸惑ったくらいだった。常盤くんの、雰囲気だね」

「ほんとかよ…。じゃあ、今までなんで」


その問いに答えることが、きっと一番、わたしにはむずかしい。

でも、これも全部伝えて、それからはじめてわたしは、常盤くんの中にわたしを刻み込めるんだろう。


わたしのこと、知ってほしい。


常盤くんはあの出会いを、特別だと思っているということを教えてくれたから。

それだけで充分すぎて、幸せだよ。



「好きだから」



初めて言葉にした瞬間、心臓が、今まで感じたことのないくらい速く動きだした。



「常盤くんのことが…大好き、だから ────」



涙がにじんで、それに気づいたときには、頬を伝っていた。

手のひらを、ぎゅっと握って空気をつぶす。

思わずうつむいてしまったけど、常盤くんのことを見るのがこわくて、顔を上げられない。


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