金曜日はキライ。
おそるおそる弓くんを見ると、黒い髪の中で呆れたような瞳がこっちを向いていた。
りくちゃんまでじろりと見てくるから、よけい自分が情けなくなる。
「だ、大丈夫だったよ。ちゃんとわかってくれたし」
「ならいいけど…わたしが傍にいたら追い払ってたのに!だいたい弓くんだって見てたなら助けにいきなよっ」
「そろそろ自分でなんとかしてみろって思ってたんだよ。まあ結果平気だったんならいーか」
う。本当はこそこそ逃げ帰らないといけないってことは言えない…。
弓くんってわたしのこと、きっと呆れてると思うんだ。めんどくさいってさっき言われたし。
でもわたしはけっこう弓くんみたいな存在、大事だって思ってたりする。こんなにはっきり自分の気持ちを表してくれる人ってなかなかいないと思う。貴重だって勝手に重宝してるけど、そんなこと本人が知ったら「うざ」って嫌がられそう。
そろそろ行くわ、と黒い髪にコック帽子をかぶりながら立ち上がる。
あ、言いそびれてることある。
「弓くん、りくちゃんの言う通り料理の才能あると思うよ」
そう言うと弓くんはくちびるをへの字にした。
「店長が考えた手順に沿って作ってるだけだよこんなん。誰にもできる」
ぶっきらぼうにそう言い放ち、キッチンに帰ってしまった。
りくちゃんは「褒めてんだから素直に受け止めてほしいよねー」なんて言いつつ笑ってた。わたしも、ああいう弓くんのへの字の口元に隠れた照れが、かわいいなって思う。