金曜日はキライ。
…一番、見られたくない人。
「弓くん…」
本当、自分が情けない。断ることすら自分じゃ何もできないなんて。
「あんたが触ってるそれ、俺のなんだけど」
「……っ」
いつものポーカーフェイスでなんてこと言うの弓くん…わたしびっくりだよ。
掴まれた腕を弓くんも掴む。痛いくらいだったちからの方の手が離れた隙に弓くんの方へ引き寄せられた。
「なんだ残念、彼氏いんのかよ」
「若いねえ。また来るから相手してねー」
「もう来んじゃねえよ。あんたらみたいな社会人目障りなんだよ」
「ちょ、弓くん言い過ぎ…」
これ以上弓くんが言わないように間に入るようにして立つと「おまえなあ…」といら立ちを抑えたような声で名前を呼ばれる。
続く言葉を聞くのがこわくて、それを遮るかのように口を開いた。
「わ、わたしが情けないから、怒ってるよね」
「…は?」
だって、弓くん、きっと呆れてる。
「あんなのも一人じゃ追い払えないのかよって…ごめんなさい…帰る前に引き留めるようにしちゃって…」
また変われなかった。どうしようどうしようってことだけが頭を駆け巡って…何もできなかった。だから変なうそまでつかせちゃった。
弓くんが来なかったらどうなってたんだろう。考えただけでこわいよ。
「ああ、呆れるよ。いつもいつもおどおどして、自分の意思なんかないみたいに人の言うことばっか聞いて」
「ごめ、」
「あほかよ。店の中と一人の時はちげえだろ」
「え……」
弓くんの手が肩を掴む。だけど、さっきの人みたいに強いちからじゃない。でも、細いのに、大きな手。ちょっとソースのにおいがする。
「一人の時は一人でなんとかしようとすんな。危ねえだろ。店に俺たちがいんのになんで呼ばねえんだよ」