金曜日はキライ。


そんなこと言ってくれるとは思わなかったから、泣きそうになる。でも耐えた。肩に置かれた弓くんの手を、ちょっと掴む。


「迷惑かけられないって思って…」

「おまえに何かあったほうがずっと迷惑だから。そんなことくらい考えろよ」

「う、ごめ…」

「謝って済ませんなよ。そういうところがめんどくせえっつってんの」


ごめん、と言いかけて飲み込む。言われたそばから言ってしまいそうだった。

弓くんが息を吐く。悲しい。


「送る」

「え!だ、だいじょうぶだよ…!」


これ以上は迷惑かけられない、と思って、歩き出した弓くんを追いかけて肘あたりの服を引っ張って引き留める。


「自転車だし…」

「じゃあ俺が後ろ乗るからこいで」

「でも弓くん帰るの遅くなるよ…明日も学校と部活でしょう…?」

「うるせえな、うだうだ言ってないで黙って言うこと聞けよ。…こわいだろ、一人で歩くの」



…ぶっきらぼう。

でもへの字の口元をしてる。さっきまで怒ってたのに、急に優しくなるから、こっちの気分が追い付かないよ。


「ありがとう、弓くん」


本当は、弓くんの言う通り、こわかった。一人で帰ってまたあの人たちがいたらどうしようかと思ってた。


「やっと言った。ごめんよりそっちのが気持ちいいんだけど」

「あ、ごめ」


また言いかけたわたしの鼻を、「罰だ」と言わんばかりにつままれる。痛いし、汗かいてるかもしれないからやめてほしい…でもなんか、楽しいなあ、こういうの。楽しんじゃいけないかもしれないけど。


「まあそれが茉幌だよな」


そう言った弓くんの表情は、ほんの少し微笑んで見えた。

じんわりとあたたかい気持ちになる。


最近思うの。わたし、弓くんみたいな人になりたい…って。

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