金曜日はキライ。
心臓が、バクバクと動き出す。
緊張。それと、…隠してる気持ち。
こうやって暴れ出すのは、からだの外に出たいからなのかな。自分でもわからない。
気づかれないように、小さく深呼吸する。
「常盤くん、まだ残ってたんだね」
わたしの周りには誰もいない。
一人きりの教室だった。
常盤くんは、わたしの名前を呼んだ。
常盤くんが、わたしに、わたしだけに、話しかけてる。
こんなにうれしいことって、他に見つからない。
「ちょっと千昂に用があってさ。ごめんな、また和央に雑用頼まれたみたいなのに気づかなくて」
「えっ、ううん、ぜんぜん平気だよ」
「駒井に聞いて知ってさ。金曜ってことに浮かれてたわ」
わたしに笑いかけてる。
…常盤くんが、わたしだけに。
こんなことってあまりない。
「平気だよ。和央先生、けっこう好きなんだ」
「おれも好き。イイヤツだよな」
う。うらやましい和央先生…。
いいなあ。常盤くんに好かれてて。和央先生を慕う気持ちはよくわかるけど。雑用頼まれても何されてもなんか許しちゃうからずるいよ。
「仲良しだもんね、2人」
「1年からお世話になってるからねー」
こんな他愛のない会話、初めてする。今日がキライな金曜日だってこと忘れそう。
「そういえば露木、今日の体育の授業注目されてたよ」
「え…!?」
注目!?わたしが?
何かの間違いだと思う…。
そう言うとけらけら笑い出すからくらくらした。夢かもしれない。わたしもこんなに話せたのは初めてで、自分にびっくりだ。
ふたりきりの教室。
これがわたしの性格に作用してるんだと思う。