金曜日はキライ。
視力だけはいいの。
常盤くんの頬に、なみだが伝ってる。
雲の間から漏れた太陽の光に反射していて、すぐにわかった。
みんなの人気者で、やんちゃしても先生には気に入られていて。明るくて優しくて、でも言うことは言う、そんな常盤くんが、泣いていた。誰も傍にはいなくて、こっそりと、ひとらきりで。
あの窓からはこの町の景色がよく見える。だけど常盤くんの瞳は、何の色も映してないような気がした。
奥底に隠していた気持ちが、ずきずきと痛む。
頬に落っこちてきたのは、常盤くんのなみだだった。
それはきっと、わたしが受け止めちゃいけない、誰かのために流したものだった。
常盤くん。
あれは高校1年の、梅雨前の出来事だったよね。
まばたきするのが惜しくなるほど、きれいな光景だった。…なんて、泣いてる人にそんなこと思うなんて本当はダメだよね。
下校時刻の鐘を聴いて慌てて自分の手で涙を拭いた。瞳に色を再び宿し、流れるように向けられた視線。そっと、目が合う。
どきり、と身を縮める。見ていたことがバレてしまった。ぜったい、見てはいけないものだったのに。
常盤くんは愕いた顔をしたあと困ったように笑い、それから口元に人差し指を一本添える。「言うなよ」って口パクをされ、うんうんと首を縦に振った。それしかできなかった。
言わないよ。言うわけない。言えないよ。…言いたくない。
だけどこの時の鐘は、常盤くんに惹かれるわたしに忠告するようだった。
常盤くんの笑顔。憧れてた。
日葵から聞く常盤くんはいつだって、笑っていた。
それが本物に見えなくなったのは、この時からだった。