Don't let me go, Prince!


 この人の妻でいたい気持ちが全くないと言えば嘘になる。この人の中に私の存在がこれっぽっちも無かったとしても、短い結婚生活の中で私が彼の事を想う気持ちに嘘は無かった。

 だからと言って、今弥生さんが何をしても許されるわけではないでしょう?

「今までの結婚生活で、私は十分に貴方の妻として尽くしてきたつもりだったわ。この半年が貴方にとって何の証明にもならないと?」

 食べて貰えない料理も気にしてもらえないお掃除も、貴方のシャツのアイロンだって貴方が雇った家政婦から取り上げてかけてきたのは私。貴方はそんなこと知ろうともしなかったでしょう?

 小さなこと1つでも気付いて声を掛けてくれたならば、私はきっとあの場所(屋敷)にまだ残ることだって出来たかもしれないのに。

「渚が私に尽くして無いなんて思ってはいません。ですが、この半年間渚が見せてきた姿は素の渚ばかりではないはず。私は今の素の渚の気持ちが知りたいのです。だから、私に本当の貴女の全てを見せなさい。」

 確かに貴方の傍に居るときの私の姿は作ったものだったかもしれない。でもそれも全て貴方の気を惹く為、それだけだったのよ。

 彼は命令形の口調を止めない。あくまで彼は支配する側で、私は支配される側なのだという事は変えられないらしい。

 プライドばかり高いはずの私なのに、彼の言葉に胸の奥が熱くなるのを感じずにはいられない。「違う」と否定してもどこかでやっと興味を持ってもらえたのだと、喜んでいる私がいるのよ。

 もう、頭の中がグチャグチャで最悪の気分だわ!

「そう言えば、私が納得して自分から服を脱ぐとでも思ってるの?私の全てが見たいならばあなたが勝手に脱がせればいいだけのことよ。私は夫の貴方に、抵抗なんてしないわよ?」

 震える手を腰の後ろに隠して、私は弥生さんの瞳を睨みつける。弥生さんの指先は鎖骨から胸元には移動したが、そこからは動かない。私が脱ぐまではきっとこのままなのだろう。


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