Don't let me go, Prince!
「さて……弥生の言う大事な話とやらをそろそろ聞かせてもらおうか?そのために何度もこの場所まで来ているのだろう。」
「ええ、この前の返事も含めてお話をしたいと思って来ました。」
この前の返事?何の話を彼らはしたのだろう……私は弥生さんから何も聞いてはいない。
こういう時にまだ完全に信頼されて無いのだろうかと不安な気持ちになるの。もしかしたら弥生さんは心配かけないようにと話さないでいただけなのかもしれないけれど。
「私と渚は、近いうちにあの屋敷を出ようと思っています。これからは二人の力だけで暮らしていこうと。」
「屋敷を……?今までの贅沢な生活を捨てて質素に暮らしたいとでも?お前の妻はそれを納得しているのか。」
「渚は私に付いて来てくれる、と。彼女はぜいたくな暮らしには興味が無かった様です。」
お義父さんは私が贅沢な暮らしをしたがっていると思っていたのかもしれないけれど、私にはそんな事はどうだっていいの。弥生さんの傍に居られるなら庶民の暮らしだって全然構わない。
弥生さんはそんな私の気持ちを、お義父さんにハッキリと伝えてくれる。
「俺はお前に医者を止めて俺の会社で、俺の後を継ぐ神無の補佐をやって欲しいと頼んだはずだが……そんな気は無いという事か?」
「ありません。私はあの病院を辞めるつもりはありませんから。」
神無さんの補佐?そんな話が出ていただなんて……
弥生さんのお父さんが会社を経営している事は聞いていたけれど、弥生さんは病院に勤めているから詳しくは知らなかった。
弥生さんがあまりそのことについて話さなかったのは、跡を継ぐことになっていたは神無さんだったからなのね。
「長男のお前が神無の補佐では不服か?」
弥生さんはそんな事を考える人ではないわ。
この言葉でお義父さんは、弥生さんの性格をこれっぽっちも知ろうとしていない事が分かる。
「そういう事ではありません。私は今の仕事にやりがいを感じているのです。」