Don't let me go, Prince!
弥生さんはお義父さんにきちんと自分の意見を言う事が出来ている。まっすぐに相手を見て目を逸らさずに答えることの出来る強さが彼の魅力だと思う。
それに……仕事をしている時の弥生さんは本当に生き生きしてるの。残念ながら一度しか見たことは無いのだけれど。
「お前の能力を俺は買っているんだぞ。医者でなくともお前なら十分俺の会社で能力を発揮出来るはずだろう?」
お義父さんにとっては弥生さんも都合の良い駒のつもりなのだろうか?弥生さんの仕事を認めようともしてくれないのね。
「お父さん、私は小児科医であることに誇りを持って仕事をしています。この仕事が本当に好きなので、他の仕事は考えられないのです。」
「お前は本当に頑固だな。俺の言う通りにすればお前の可愛い嫁にだっていい生活をさせてやれるし、俺の財産だってそれなりに分けてやれるんだ。俺の言う事を聞いた方が幸せなんだと何故分からない?」
お義父さんの言葉に私の中の何かが音を立てて壊れていく。弥生さん達の気持ちを無視した言葉に、私の指先が痛くなるほど固く拳を握る。
今、私がでしゃばる事はよくないって分かっている……だけど。
「大丈夫です。お義父さんの財産なんかなくても、私が弥生さんを幸せにしてあげられる自信はありますから!」
私は一歩前に出て弥生さんの手を取った。この冷たい手と自分の手を重ね合わせれば何でも出来る気がするの。
屋敷でどれだけ贅沢をさせてもらっても、弥生さんと心通わせられない生活は何の意味も無かった。彼があの屋敷を出る事で心が自由になれるのならば、私はそんな弥生さんを傍で支えてあげたい。
「俺の財産全てを妻と神無に渡しても構わないと?本当にそれで後悔しないと言えるのか、お前達は。」
私達が思い通りにならない事への悔しさからか、お義父さんは低い声で何度も確認をした。
それでも私と弥生さんの気持ちは決まってる。