Don't let me go, Prince!


 名刺を片手に私は神無さんに微笑んで見せる。この人なら本当に困った時きっと助けに来てくれる気がする。

「本当に僕を信じちゃうの?ははっ、本当に渚ちゃんには勝てそうにないね。」

 先程までも感情の無い笑みとは違う、神無さんの素直な笑顔に私も弥生さんも少しだけホッとする。やはり神無さんはこっちの笑顔の方がずっといい。

「渚、私は車を取ってきます。少しだけ、神無の話し相手をしていてくれますか?」

「……え?はい、分かりました。」

 弥生さんはそれだけ言うとさっさと部屋から出て行ってしまう。私と神無さんはゆっくりと歩いて玄関に向かう。

「ねえ、渚ちゃん。僕の昔の将来の夢は、なんだったと思う?」

「神無さんの、ですか?そうですね……消防士とか警察官とかだったり?」

 神無さんは子供の頃はかっこいい職業に憧れていそうな感じがしたので、何となく子供がかっこ良さそうだと思うような職業を答えてしまった。

「残念、ハズレ。実はね、僕は昔小児科医になりたいと思っていたんだ。」

「え?それって……」

 弥生さんの今の職業が小児科医だ。神無さんが就きたかった仕事に弥生さんが就いている、これはどういう事?

「最初はね……会社の跡継ぎが僕だと決まった時、選ばれた僕が憎くてその仕事を選んだのかと思ったよね。それくらい僕も兄さんに距離を感じていたし。」

 ぽつりぽつりと当時を思い出すように話す神無さんの顔は少しだけ寂し気で。もしかしたら神無さんは今でも小児科医になりたい気持ちを諦めきれていないのかもしれない。
 でも神無さんが跡継ぎに選ばれたからと言って、弥生さんは嫌がらせでそんな事をする人ではない。


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