Don't let me go, Prince!
「神無さん、弥生さんはそんな人では――――」
「うん、そうだね。分かってはいたけれど、僕はあの時嫉妬せずにはいられなかったんだ。自分が出来ない事をあっさりやってのける、あの人に。」
ああ、そうなんだ。神無さんはきっとお義父さんに「こうしろ」と言われたら反抗はしないだろう。
ただ黙って夢を諦めるしか出来なかった神無さん……そんな彼を見ていながら弥生さんは何を考えて小児科医を目指したのだろう?
「弥生さんは、何故小児科医に?神無さんは、何か知ってるの?」
「兄さんは僕の夢を羨ましいと言っていたことがあったんだ。自分には夢が見つからないって。」
弥生さんは小児科医になると決めるまで、将来の夢が何もなかったらしい。確かにお母さんの事もあっただろうから、その頃の弥生さんはそんな事を考える余裕はなかったのかもしれない。
「いつからか、兄さんは僕と同じ小児科医になりたいと言うようになった。僕の話を聞いて調べている内に興味を持ったらしいよ?」
「弥生さんに小児科医を目指すきっかけを作ってくれたのは、神無さんなのね……」
神無さんが将来の夢を話していなければ、弥生さんは何も考える事もなくお義父さんの会社で働いていたのかもしれない。
あまり会って無かったように聞いたけど、お互いへの影響力は強かったのかもしれない。
「多分兄さんは自分が選んだ進路に向かって進む姿を見せて、僕にも好きな道を選べと言いたかったんだろうと思う。僕は兄さんのような強さを持っていなかったから、父と母が望む道しか選べなかったけれど。」
「神無さん……」
弥生さんの本心は本人にしか分からない。だけど神無さんの言うように、弥生さんは神無さんにも小児科医を目指して欲しかったのかもしれない。彼は口にはしないだろうけれど、きっと神無さんの夢を応援していたでしょうから。