Don't let me go, Prince!
「弥生さんの気持ちが神無さんに伝わっているのならば、神無さんがどんな道を選んだとしても弥生さんは貴方を応援してくれていると思うわ。」
そう言って神無さんに微笑んで見せる。弥生さんならきっとそう思うだろうという自信が私にはあったから。
「……君みたいな子が、僕の傍にもいてくれたら。」
そう言って神無さんが私の顔にゆっくりと手を伸ばしてくる。
彼の手が触れそうになった瞬間、私たちの前に弥生さんの車が止まる。車の運転席のドアが勢いよく開き弥生さんが車の中から出てくる。
「渚、こちらに来なさい。」
弥生さんに呼ばれて、私は少し戸惑い神無さんを見る。神無さんと話すように言ったのは弥生さんなのに、彼はいつもより少しだけ不機嫌そうな顔をしてるから。
「ほら、行ってあげなよ。これくらいの事でヤキモチ妬く旦那さんなんて、渚ちゃんも大変だね?」
「ふふふ、可愛い旦那様でしょう。神無さんもそう思わない?」
私は神無さんに弥生さんのそんな所も愛おしいんだと言ってから、弥生さんの傍へと走っていく。
神無さんは私の後からゆっくりと車の傍まで歩いてきた。
「……兄さんの事を羨ましいと思ったのは、これで何度目だろう。」
私が弥生さんの隣に立つと、神無さんは弥生さんと私を交互に見てからそう言った。
「私が渚と出会う事が出来たように、神無には神無を愛してくれる女性がきっと見つかります。」
「嫌だな、僕はお見合いで父の望む相手と結婚するんだよ。誰かに愛して欲しいなんて、今更思ってない。」
神無さんはさして面白くも無さそうに笑う。これはきっと彼の本心じゃない、神無さんは弥生さんより愛されることを望んでいるように感じられる。