Don't let me go, Prince!
「神無、何度も言いますが……私がお前の居場所を奪うようなことは無いのですから、神無はもう周りの人の為に無理して笑わなくていいのですよ?」
弥生さんは静かに神無さんにそう伝える。やはり神無さんが無理をして笑っている事に気付かないわけが無いものね。
きっと弥生さんは神無さんに事をとても大切に思っているから、これ以上それを見なかった事には出来ないのだろう。
「今更……どうにかなんて出来っこないよ。兄さんからそんなお説教なんて聞きたくないって言っただろ?」
神無さんは弥生さんから顔を背けてしまった。神無さんは弥生さんの言う事もちゃんと分かっているけれど、彼の立場が自由を奪っているだろう。
神無さんには、彼を助けて癒してくれる誰かがきっと必要なんだ。
「じゃあ、私がお説教をしない神無さんの相談相手になってあげる。もちろん秘密は厳守するわよ。」
私は神無さんの特別な存在にはなれないけれど、少しだけ彼の話を聞く事なら出来る。神無さんの辛い思いを吐き出せる場所を作ってあげたい。
「相談役って……そんなこと言うと、ヤキモチ妬きの兄さんがなんて思うかな?」
「弥生さん、いいかしら?」
私は弥生さんから許可が貰える自信があった。弥生さんだってこんな状態の神無さんをそのままにはしておきたくないはずだから。
「お願いします、渚。ただ、もう二度と神無と二人きりで会ったりはしないでください。渚は私の妻なのですから。」
私と神無さんは目が合うと二人で笑ってしまった。だって弥生さんのヤキモチの妬き方があまりにも可愛らしかったから。
「大丈夫よ、弥生さん。私の夫だって弥生さんしかいないのよ?」
少しだけ不機嫌な弥生さんの手に自分の手を重ねて、冷たい指先に触れる。この手が私の愛する人の手、特別なのは貴方だけなのよ。
どうしたらこの気持ちが全部弥生さんに伝わるのかしら。