Don't let me go, Prince!
「私は大丈夫よ、弥生さんはどこに行きたいの?」
弥生さんには、寄り道という言葉があまり似合わないわね。私はこの場所に詳しくないから、弥生さんがどこに向かおうとしているのか分からない。
「……秘密です。」
「弥生さんは何でも秘密にしたがるのね。でももう暗くなってきたわよ、帰りの運転が辛くならない?」
これからどこかに寄って帰るとしたら、ホテルに着くのは深夜になるかもしれない。
もし弥生さんが運転するのが辛いようならば、私が代わってもいい。免許は持っているし運転にもそれなりに自信があるから。
そう思って聞いてみても彼は「大丈夫です」と返すだけ。こんな時もっと私を信頼して頼ってくれてもいいのに、と思ってしまうのよ。
車を走らせて一時間は過ぎただろうか。景色が住宅街から田んぼに変わりいつの間にか山道へ。
まさか連れて行きたいところって心霊スポットなんて言わないわよね?私そう言うのはまるで駄目なんだけれど……
真っ暗であまり外の景色も分からないし、不安になっていると駐車場らしき場所に弥生さんが車を止める。
「渚、車から降りてついて来てください。」
弥生さんに言われて車を降りて弥生さんの後を付いて行く。外灯の灯りを頼りに階段を上って広場に出ると、目の前に広がる美しい夜景。
「うわ……綺麗。弥生さん、こんな素敵な夜景を見に連れて来てくれてありがとう。」
私は弥生さんに連れて来て貰えたことが嬉しくて、夜景を見ながら子供みたいにはしゃいでしまう。
けれど弥生さんは困ったような顔をしてる。ねえ、どうして?
「すみません、渚。私は女性に気が利かなくて……ですから神無が渚を連れて行くように、と私に教えてくれたんです。お礼を言うのならば神無に言ってください。」