Don't let me go, Prince!
「ふふふ、そうね。神無さんにお礼を言わなきゃね。見て弥生さん、あの場所がとても綺麗。」
私は手すりにつかまって、一番綺麗な場所を指差して弥生さんに教えようとする。同じものを見て、同じように綺麗だと思えたらきっとそれは素敵な事。
「ああ、とても綺麗ですね。渚は、本当に初めて出会った時から変わりませんね。強くていつも前向きで、私にたくさんの勇気をくれる。」
「初めてって……病院の時ではないのよね?ごめんなさい、私まだその時の事を思い出せてないの。」
弥生さんは私が思い出すのを今もきっと待ってくれているのだろう。でも私は彼と初めて会った時の事をまだ何も思い出せてない。私はいったいいつ彼と出会ったのだろう?
「いいんです、私は渚が思いだすのをのんびり待っていますから。」
「本当に?弥生さんがおじいさんになっても?」
「ええ、渚と一緒に年を取るのならそれでも構いません。私は渚が隣に居てくれるだけで幸せなんです。」
そう言って弥生さんはふわっと柔らかく微笑んでくれた。
……初めてかもしれない、彼のこんなに自然な笑みを見たのは。私は嬉しくて、瞼の奥が熱くなってくる。
「私も……弥生さんと一緒におばあちゃんになれたら、きっと幸せだと思うわ。今の私達なら、叶えられるんじゃないかしら?」
このまま自然と夫婦として暮らして、もしかしたら子供が産まれて……そうして二人寄り添って年を取っていく。そういうのが私達二人が望んでいる理想の形なのかもしれない。
溢れそうになる涙を見られないようにそっと後ろを向くと、弥生さんが腕を伸ばして優しく抱きしめてくれる。
「渚……私は貴方に辛い思いばかりさせたと思います。これからはもっと大切にすると約束しますから、ずっと私の傍に居てください。私は貴女を誰よりも愛しているんです。」