Don't let me go, Prince!
お風呂場に歩いていく弥生さんの後姿を見ながらため息。何だか弥生さんは私に我が儘を言うのが上手くなったみたい。
あの表情に私が弱いって、弥生さんはきっと分かってやっているんでしょうね……
「渚、お風呂が沸くまで紅茶でも飲みますか?」
戻ってきた弥生さんは、少しも休まずに動こうとする。
「そうね、弥生さんはずっと運転していたから疲れているでしょう?私が淹れてくるわ。」
私はそう言ってソファーから立ち上がってその場から離れる。今弥生さんを見ると、彼との入浴を想像してしまって何だか恥ずかしいのよ。
「はい、どうぞ。弥生さんもソファーに座ってちょうだい。」
「ありがとうございます。渚の淹れてくれる紅茶はとても美味しいですね。」
弥生さんはちょっとしたことで私を褒めてくれる。この人を冷たい人だなんて思って、本当に私は何も分かっていなかったわ。
私は「ありがとう」と弥生さんに言って微笑む。彼もそんな私を見て目を細めて頷いてくれる。本当に、この人を大好きな気持ちでいっぱいになれる。
「お風呂が沸いたようですね。私は先に入っていますので、渚は心の準備が出来たら入ってきてください。」
お風呂の音声案内が鳴ると弥生さんは着替えを持って先に行ってしまった。本当に私は弥生さんとお風呂に入れるのかしら?
着替えを準備して脱衣所に入ると、彼はもう浴室に入ってしまったよう。隣に弥生さんがいると思うと、心臓をドキドキさせながら一枚ずつ服を脱ぐ。
タオル一枚でそっと浴室の扉を開く。お風呂にこんなに緊張する事ってあるのかしら?
弥生さんは髪を洗っていたようで、濡れた黒髪を後ろに流していた。
「あ、あのっ!弥生さん。」
「どうしましたか、そんなに緊張して?」
私は脱衣所で服を脱いでいる時から、自分が弥生さんにやってあげられそうなことを1つだけ考えていた。
「背中、流しましょう……か?」