Don't let me go, Prince!
私が弥生さんにしがみ付いてしまったから、弥生さんはそっと私を抱きしめてくれる。彼とはまだ二度しか素肌を触れ合わせたことの無い私は、彼の体温に戸惑いその状態のまま硬直してしまう。
……ねえ、私は貴方に抱き締められてどうすればいいの?
弥生さんに抱き締められた時間は長かったのか、それとも短かったんだろうか?混乱しながらも甘えるように彼の肩の頭を寄せる。
……私にしては頑張って可愛い行動をとったつもりだったけれど、弥生さんは私の肩を両手でそっと押して、2人の身体を離してしまった。
「渚、すみませんが私は先に上がります。貴女はゆっくり入ってから上がってくるといい。」
そう言って弥生さんはもう一度身体を流すと、私だけをその場に残してさっさと浴室から出て行ってしまった。
「私、何かいけなかった……?」
もしかして弥生さんは、私が甘えたりするのは嫌だったとか。だからあんなに素っ気なく、先にお風呂から上がってしまったの?
……そうよね。私みたいな気の強い女がいきなり甘えたって、男の人は可愛いなんて思わないわよね。
自分が普通の女の子の様に可愛く振る舞えてない事は分かってる。子供の頃からいろんな人に「渚は気が強すぎる」そう言われ続けてきたのだから。
だけど、弥生さんだけはそう思っていないと私は勝手に思い込んでいたみたい。私の事を「可愛らしい妻」だと言ってくれた、その言葉を馬鹿正直に信じていたのね。
「ヤダ……、こんな事でショックを受けるような弱い女じゃないわよ……」
独りぼっちになったバスルームで、俯いて小さく呟く。
これくらいの事で涙なんて出る訳ないはず、それでも瞳の奥はジンと痛む。私は今まで気付いてなかった自分の気持ちに向き合わされる。
……私、弥生さんから「可愛い」って言われて本当は嬉しかったんだ。私は彼に女性としてもっと可愛いって思われたい。