Don't let me go, Prince!



 ◇◇◇◇


 ――――私は今、走ってる。

 何かを探しているのか、私はキョロキョロと周りを見ながら走っていた。

 ここって、私が通っていた高校じゃない?間違いないわ、あの池もベンチも……昔のまんま。
 ただいつもと違っているのは生徒が用意したステージや色んな出店がいくつも並んでいる。

 よく見れば自分もやけに派手な服を着ている。どう見ても普段着るような服ではない。

 ――――この服、そしてこの景色。高校3年生の時の文化祭よね?

 私は校舎の影に来ると走るのを止めてゆっくり歩きだした。
 そこの奥の方には真っ黒な服を着た誰かが座ってる。具合が悪いのかその人は私が近づいても顔を上げようとしない。

『冷たい水を買ってきたから、飲んでみて?こんなに暑いのにそんな真っ黒な厚手の服をどうして着てきたの?』

 どうやら、暑さで具合が悪くなった様子。ゆっくり顔を上げて水を受け取ったのは太い黒縁眼鏡を掛けた男性。

 ――――でも、眼鏡の奥の瞳は私が一番愛しいと思う人と同じ。この人はもしかして?

 確かめようと、もう一度彼の瞳を覗きたかったけれど。大好きな弥生さんの呼ぶ声が聞こえてその場所からスッと意識が離れて行く。
 
 思い出した……あの日の出来事。あの時の男性が貴方(やよいさん)だったのね。


 ◇◇◇◇

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