Don't let me go, Prince!
キョロキョロと周りを見ながら走っていると、ふと校舎の裏が日陰になっている事に気づく。
あの男の人とても暑そう恰好をしていたし、もしかしたら……
私は走るのを止めてゆっくりと歩きだす。校舎の角を曲がって、日陰になっている校舎の裏側へ。そう言えばここって奥にベンチがあったわよね。
そっと奥の方を見るとベンチで休んでいるあの男性。やっぱり具合が悪いのか俯いて目を閉じているみたい。
私はそっと近づいて男性にペットボトルの水を差しだす。
「冷たい水を買ってきたから、飲んでみて?こんなに暑いのにそんな真っ黒な厚手の服をどうして着てきたの?」
声をかけると、男性はゆっくりと顔を上げる。太い黒縁眼鏡をかけているから分かりにくいけれど、この人もの凄く整った顔をしてる……
「貴女は、さっきのステージの……?」
「そう、熱烈な視線をありがとう。あんまり貴方が見つめるから、私もあなたの事が気になって追いかけてきちゃった。」
「それは、すみませんでした。」
冗談のつもりだったのに、男性は申し訳なさそうに謝る。真面目な人なのでしょうね、具合が悪いのだから無理しなくていいのに。
「嘘よ、具合悪そうだったから追いかけてきたの。そんな事より、早く水を飲んで?」
「ありがとうございます。」
男性が水を飲み始めたので、私は彼の隣に座って待つことにする。私は彼の具合が良くなるまで傍にいるつもりだった。
なんとなく、このまま名前も知らないこの男性とお別れしたくなかった。
「……具合が悪くなるほど暑いんだったら服を脱ぐか、もっと早くあの場所から離れれば良かったのに。」