Don't let me go, Prince!
「お姉ちゃん、四ツ谷先生は顔は怖いけど、優しいしすっごく人気なんだぜ?」
足をさすりながらシュン君は言う。あの先生、子供から顔が怖いって言われてるし……本人は知っているのかしらね?
まあ、顔が怖いというより、無表情な感じといった方が正しいかもしれない。綺麗な顔をして表情が変わらないから、冷たくて怖く感じるのでしょうね。
「四ツ谷先生って言うんだ、あの人……」
診察室の扉を開けると、さっきの医師と看護師さん。シュン君を椅子に座らせて私は後ろで話を聞く。
四ツ谷先生はシュン君の足首に触れ、どこが痛いかを確認していく。念のためにレントゲンを撮ったけれど、骨に異常はなく捻挫で済んだようだった。
「たいしたこと無くて良かったわね。」
シップと包帯でだいぶ落ち着いたようでシュン君ももう痛がってはいない。会計を済ませようとすると、後でシュン君のお母さんが払いに来ますと電話があったらしい。
私は家までシュン君を送るために車に乗せる。運転席に乗り込みエンジンをかけようとすると、「コンコン」と窓ガラスを叩く音。
何かしら、と思い窓を開けるとさっきの無表情な医師が傍に立っている。
「えっと……四ツ谷先生……?」
何かあったときに看護師が追いかけてくることはあったけれど、先生が来たのは初めて。シュン君の足に何か見つかったのかしら?
「もし……また何かあったら《《ここ》》に連絡してください。私の番号です。」
私に差し出された小さなメモ用紙。四ツ谷先生の電話番号とアドレスが書いてある。
「……は、い。ありがとうございます。」
普通、患者を連れて来ただけの女にこんな簡単に電話番号なんて渡すのかしら?ああ、もしかしてプライベート用ではなく、病院で使っている番号とか?
四ツ谷先生の手からメモ用紙を受け取り、お礼を言ってからそっと財布に入れる。