Don't let me go, Prince!



「だから、その……弥生さんみたいなかっこ良くて落ち着いた男性にジッと見られていたら、恥ずかしいって事です。」

 いつもはもっと堂々としゃべれるのに、弥生さんが「可愛い」なんて簡単に言うから何だか照れてしまって上手く話せない。
 私はいつの間にか、この人の言葉に完全に振り回されてしまっているみたい。

「そうだったのですか。すみません、渚さんの表情がコロコロ変わるので目が離せなかったんです。」

 確かに私は表情がよく変わると言われる。もしかして弥生さんの周りにはあまりいないタイプだったのかしら。

「そうなんですね。……ねえ、弥生さんはどうして今日私を誘ってくれたの?」

 私はコーヒーを一口飲んで心を落ち着けてから、ずっと気になっていたことを弥生さんに聞いた。
 ちょっとだけ患者の付き添いとして彼と顔を合わせただけの私を、どうして?

「……貴女だ、と思ったからです。」

「どういう意味ですか?弥生さんはわざと私が分からないような言い方ばかりしていますよね?」

「そうかもしれませんね、すみません。」

 きっと弥生さんは本当の理由を私には教えてくれない気がする。弥生さんを知ろうとしているのに、分からないことが増えていく。

「そろそろ出ましょうか。」

 弥生さんが立ち上がったので、私も立ち上がり彼の後をついていく。お店を出ても弥生さんと私の距離はあまり変わっていない気がする。

「どうぞ、渚さん。」

 ドアを開けてくれた弥生さんにお礼を言って、助手席に乗り込む。弥生さんも運転席に乗りエンジンをかける。走り出した車の中、黙り込む弥生さんに何を話せばいいのか分からない。
 でもこのまま弥生さんと別れたら、もう弥生さんとこんな風には会うことは出来なくなるわよね……?


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