Don't let me go, Prince!
「乗りますよ、渚さんと一緒なら。」
そう言って私をジッと見つめるから、本当は止めた方がいいわよって言いたいのに言えないじゃない。
弥生さんは入り口までさっさと歩いて行ってしまったので、私もその後を追う。
順番が来て、弥生さんが座った席の隣に私も座らせてもらう。弥生さんはいつも通りの無表情で、本当は怖がっているのかそうでないのかよく分からない。
ピリリリリリ……という音が鳴ると、船はゆっくりと動き出す。小さな前後の揺れから少しずつ動きが大きくなっていく。
そっと横を見ると、弥生さんはかなり強く手前のレバーを握っている。という事はもしかして……?
バレないようにチラリと弥生さんの表情をうかがうと、彼は真っ青な顔をしてる。いつもと変わらない表情なのに顔色だけ凄く悪い。
弥生さんの顔色が悪かろうと船はお構いなしに大きく前後に揺れ続ける。私は弥生さんの事が心配で楽しむどころでは無くて……
ゆっくりと船の動きが止まった時、弥生さんが大きく息を吐く音が聞こえた。もう、乗らなくてもいいって言ったのに、無理するから。
船から降りて私は弥生さんをベンチに座らせた。慣れない乗り物によって具合が悪くなってないか心配だったから。
「どうして無理して乗ったんです?苦手なんでしょう、ああいうの。」
自販機で買ってきたミネラルウォーターを渡して、弥生さんに問いかける。私は弥生さんに無理させてまで乗りたいわけじゃなかったのよ?
「そうですね、得意では無かったのですが……」
「じゃあ、どうして?無理して乗らなくてもいいわよって言ったじゃない。」
あんな真っ青な顔をしてまで、乗ろうとするなんて。どうしてそこまで無茶するのよ?
弥生さんは顔を上げて、彼の前に立っている私の顔をジッと見つめる。
「アレに乗るのも、渚さんとの思い出になるかと思ったので……」