Don't let me go, Prince!
弥生さんは食事が終わるとトレーを持って部屋から出て行った。特に会話をすることは無かったし心の中は複雑だったけれど、2人きりの食事は嫌じゃなかった。
あの屋敷よりずっと狭い部屋の中だけど、弥生さんがすぐに戻ってきてくれると分かっているから……心のどこかが喜んでいるのが分かる。
「……監禁されて喜んでるなんて、馬鹿な女。」
自分のことなのに、本当に変だと思うわよ。「脱ぎなさい」と言われた時はさすがに困ってしまったけれど、こうして少しだけ夫婦らしい距離でいれたことが嬉しいのよね。
好き嫌いなんてなさそうな弥生さんが、お漬物だけは一度も箸を付けなかった。ほんの少しだけ眉を寄せてお漬物を見つめる、そんな可愛い一面を見れたのよ?顔がニヤつきそうになるのを堪えるのは大変だったわ。
思い出し笑いをしそうになると、ドアの鍵を開ける音がしたから慌ててしまう。お澄まし顔で彼を迎えて、バレてないわねと安心したのだけれど……
「楽しそうでしたね、渚は私が漬物苦手なのがそんなに可笑しかったですか?」
と、あっさり見破られてしまった。人の表情から感情を読むのが得意な私が、弥生さんからは読まれる側にされてしまう。少しの時間しか一緒にいないのに、どうしてこうも私の事が分かるのよ?
「可笑しかったんじゃないわ。ちょっとだけ、可愛いなって思ったのよ。」
どうせ私の考えてることなんてお見通しなんでしょう?じゃあこれは素直に言って困らせてあげるわ。だって貴方はきっと可愛いなんて言われ慣れてないでしょう?
「渚は、私が可愛いのですか?」
「……え?」
真顔の弥生さんに聞き返されて、私の方が返答に困ってしまう。まさかこんな反応が来るなんて思わなかった。弥生さんでもテレたりするかしらって、ちょっとした悪戯心のつもりだったのに。