Don't let me go, Prince!
駐車場へ行けば、彼は前と変わらず私のために助手席のドアを開けて待っていてくれる。いつも通りお礼を言って乗り込んでシートベルトをして弥生さんを待つ。
黙って運転をする弥生さんの横顔をジッと見ていると懐かしい気持ちになる。何度も弥生さんの横顔をのぞき見しながら話しかけられなかった初めてのデート。
「ふふふ、あの時もこうだったわ……」
「そうですね。あの時私は貴女を隣に乗せていてとても緊張していたんです。」
弥生さんの返事に私は吃驚してしまう。だって私の言っていることを弥生さんが分かるなんて思わなかったのだもの。
「ど、どうして……?」
「私も渚と同じことを考えていましたから。渚との思い出は私にとって一つも忘れられない宝物なのですよ。」
弥生さんはいつも私を喜ばせるようなことばかり言うようになったわ。前は何一つ言葉にしてくれなくてあんなに不安ばかり感じていたのに。
「意外だったわ、弥生さんでも緊張するのね?」
「しますよ、貴女の事には……」
ついついにやけそうな頬を両手で隠すけれど、弥生さんにはきっとバレているでしょうね。だってそんな風に特別だって言われたら嬉しいじゃない?
「ふふ……そうだ、新城さんは元気かしら?会うのが楽しみね。」
「新城なら相変わらず無駄に元気でしたよ。話の途中で電話を切ろうかと思ったくらいです。」
思い出してうんざりしたのか弥生さんは、大きな溜息をついた。ふふ、そんな態度を取ってもいい関係だと思うんだけれど。
「それと……渚はほかの男性に会うのにそんな嬉しそうな顔はしないでください。妬いてしまいます。」