Don't let me go, Prince!
弥生さんは滅多に表情を変えないくせに、こういう時だけフッと微笑んで見せるの。本当に狡いわ……そうやって貴方はこれからもずっと私をドキドキさせ続けていくんでしょう?
信号が青に変わると私の手を掴んでいた弥生さんの手は、またハンドルへと戻される。それが少し寂しくも感じて……
「今だって十分困らされているわ……弥生さんが気付いていないだけよ。」
視線を弥生さんから窓の外に移してちょっとだけ拗ねてみせる。
これ以上私を困らせてどうしようって言うのよ、弥生さんに本気を出されたらきっと私の心臓が持たなくなっちゃうわ。
「渚だって分かっていないでしょう?貴女のその表情一つで私がどれだけ心乱されているかを。」
そうだったわね。私と同じように弥生さんも私の言動に振り回されるほど、私の事を大切に想ってくれている。
「これじゃあどちらが相手をどれだけ思っているのかを競っているみたいじゃない?それなら私は負ける気がしないわね。」
「いいえ、それならば私の方が間違いなく勝っているはずです。」
そんな知り合いが見たらきっと「バカップル!」と言われる様な会話を楽しんでいたから、あっという間に新城さんのお店に着いてしまった。
「あら、新城さんのお店……【close】になっているけれど、弥生さんは新城さんに電話したのよね?」
「ええ、きちんと話してあるので心配しなくても大丈夫ですよ」
そう言って弥生さんは運転席を降りると、助手席のドアを開けてくれる。差し伸べられた手に自分の手を重ねると本当にお姫様扱いされているようでくすぐったい。
私から重ねた手は離されること無く、今度は指を絡めて繋がれる。
ずっと冷たいと思っていた弥生さんの手に、やっと私の温度を分けてあげる事が出来るようになったんだわ。