Don't let me go, Prince!
「……ねえ、弥生さんは新城さんに連絡したのよね?」
新城さんのお店の近くで、私は一つおかしな点に気づく。弥生さんだってきっと気付いているはずなのに、気にしてないように見えるのは何故?
「ええ、どうやら私は新城に余計な事まで話過ぎてしまったようですね……」
呆れとも諦めとも感じれるような溜息をつく弥生さんに、私はますます訳が分からなくなる。新城さんの店のこの状態と弥生さんたちの会話が何の関係があると言うの?
「弥生さん、分かるように話してよ。どうして新城さんのお店に灯りがついていないの?」
そう……前来た時には明るかった新城さんのお店に、今夜は何故かふんわり柔らかかった雰囲気の照明がついていないの。よく見ればドアには【close】の掛札も……
「それは私の口からはなんとも言えませんが……きっとあの新城が考えそうなことでしょうね。」
弥生さんの言葉の意味が分からないまま、私は彼に手を引かれながら歩く 【close】と書かれた掛札のあるドアを弥生さんは躊躇なく開く。
簡単に開いたドアの中は真っ暗で……私は手だけじゃ不安で彼の腕にしがみ付いてしまう。
一歩、二歩と二人でお店の中へと足を踏み入れた時、ふわっと甘い花の香りがしたと同時にパッと照明がつけられて――――
「弥生、渚さん二人の結婚生活の再スタートおめでとう!これは俺からのささやかなお祝いだよ?」
私達の前には大きくてカラフルな花束を抱えた笑顔の新城さん。
……え、え?これはどういう事?訳が分からなくて思わず弥生さんを見ると、彼はこの状態に特に驚いてもいないようで……
「相変わらず余計な事をするのが好きなようですね、新城。どうせ新城の事だからこんな用意をしているのではないかと思っていましたよ。」
「だって、俺は弥生と渚さんの結婚式に出られなかったしさ……せっかくだからお祝いくらいしてやりたいじゃないか。」