Don't let me go, Prince!
肖像画を見つめる弥生さんの瞳は冷たい。さっきまで私と話していた時のような少し柔らかな感情も今は無さそうに見えた。
「母が渚にどう映っているのかは分かりませんが、私は渚の両親のほうがよっぽど羨ましいです。」
「……どうして?」
お義父さんからはあんなに大きなお屋敷を、亡くなったお義母さんからはこの部屋を貰ってる。弥生さんはそんなに欲深いタイプではないだろうから、望んでいたものは全く別のものだったのだろうか?
「渚の今日の質問は、その事にしますか?あまり気分のいい話ではないと思いますが。」
ああ、そうか。そのまま聞いても教えられない弥生さんの事なのね。それって弥生さんが私に秘密にしておきたい話って事でしょう?俄然やる気が出てきたわ。
「ええ、それでいいわ。私は覚悟を決めたから、弥生さんも覚悟を決めて?」
……ここで、私から目を逸らさずに見てよ。私は貴方の妻でいることを望んでるって証拠を。
私は弥生さんから少し離れて、パジャマのボタンを指で触れる。たった四つ、それを外せば弥生さんの事を知る事が出来るのだから。
そう心で何度も呪いの様に呟く。それでもボタンを外す指が震えるのはどうして?弥生さんにバレないように少し斜めを向いて、ゆっくり確実にボタンを外していく。
「無理をしなくてもいいのですよ。これでも渚に私の我が儘を押し付けている、という自覚はあるんです。」
これが……私に対する貴方の我が儘なのならば、私は受け入れてあげたい。貴方の気持ちが分からないままの半年間の結婚生活よりずっといい。
「ここに私を連れてきたのは弥生さんよ?貴方だって私たちの関係をこのまま終わらせたくないと思ったからココに連れてきたのではないの?少なくとも私はそう思ってると貴方に証明して見せるのよ?」