Don't let me go, Prince!
「渚に、これを渡すように頼まれたんです。ただ……この場所の事を「誰にも話さない」と、渚が約束してくれなければ渡せませんが。」
弥生さんが手に持っているのは私が実家に置いて来たスマートフォン。どうしてこれを弥生さんが持っているの?
「どうやってこれを?これを、私が持っていたら弥生さんは都合が悪いんじゃないの?」
「渚の事を連れ去っていって、ご両親に何も話さないわけにはいきません。場所は伝えていませんが「二人の関係を修復するために、二人きりの時間を取っている」と伝えています。確かに渡すかは迷いましたが……私は渚の事をもっと信頼するべきだと、貴女を見ていて思うようになりました」
そっと渡されるスマートフォン、私は手を伸ばしてそれを受け取った。
充電は満タンでディスプレイにはいくつものメッセージが表示されている。妹の馨からも何通も来ているよう。
「私が……これを使って誰かに連絡してここから逃げたなら、弥生さんはどうするの?」
「私が信じてれば、渚は私を裏切らないと思っています。」
「ふふふっ!」
真面目な顔で言われた言葉が嬉しくて、私はベッドへとダイブした。そのままスマホを持ってベッドの真ん中に座り込んで指で操作し始める。
ひとつずつメッセージを開いて、やはり妹が多く連絡が取れない事を心配している様子。すぐに弥生さんと大切な話をしているので大丈夫だとメッセージを送ろうと指を動かした。
すぐに妹からメッセージが帰ってきたので何度も打ち返す。友人からのメッセージにも返事をして……
そうだ、母にも私からちゃんと元気だよって送らなくちゃ!
スマホに集中している時に後ろから手が伸びてきて、腰に回された両腕。
ギュっと後ろから抱きしめられて、背中に密着した誰かの体温……
「あ、あの……弥生さん。どうかしたの?」
「渚はスマホを渡した途端、そればかりですね。やはり渡すんじゃなかった。」