Don't let me go, Prince!
後ろからそう呟かれて、私はどうしようもなく弥生さんが可愛くなってしまう。彼はもしかしたら無意識に私に甘えてくれてるのかもしれない。
私の言葉と行動が、少しずつでも彼の心に届いてるのだとしたら?このまま弥生さんの心の中に私は入れるのかも……そんな期待をしてしまう。
「弥生さんは、私に構って欲しいの?」
「そんなことは言っていません。私は渚のやりたいことをすればいいといつも言ってるでしょう?」
弥生さんは否定するけれど……腰に回された腕の力は強いし、少し拗ねたような言い方も気になるじゃない?
もしかしたら彼の中で、自分の気持ちをまだ肯定できない部分があるのかもしれない。素直に誰かに甘えていいなんて本人が思えていないのかも。
私はスマホを置いて、そっと弥生さんの手に自分の手を重ねる。こうして触れる事で私の気持ちが少しでも彼に伝わればいいのに……
私たちは少しの時間、何も喋ることなく指を絡ませたりして過ごしていた。
静かな室内にスマホの着信音。ベッドの上の私のスマホではなく、テーブルに置かれた弥生さんのスマホが何度も同じ音を繰り返す。
「弥生さん、出ないの?」
「いえ、今出ます。」
弥生さんは私からそっと離れテーブルのスマホを取ってディスプレイを確認し通話を始めた。
「私です、どうかしましたか?……ええ、そうですが……え?どういうことです?」
弥生さんはなぜか私をチラリと見た後、電話で話しながら部屋から出て行ってしまった。何か私に聞かれてはまずいことがあったのだろうか?
彼の通話時間は長く、戻ってくるまでに30分はかかったと思う。戻って来た時の彼の表情はあまり良い感じではなかった。
「何か大切な話だった?」
「渚は知らなくていい事です。貴女はもうしばらくこの場所で大人しくさえしていればいい。」
さっきまでと違う、冷たくて感情の読めない声と表情に戸惑ってしまう。