Don't let me go, Prince!
電話に出るまで弥生さんはもっと柔らかな表情をしていたけど……今は屋敷にいた時と同じ硬い表情に戻ってしまってる。
二人だけの時間でやっと弥生さんが少しずつ心を開きかけてくれたような気がしたのに。
さっきの電話で誰とどんな内容を話したって言うの?
弥生さんは私が座っているベッドの方にはもう近付いてこようとはしない。今度はコーヒーを淹れて鞄から何かの書類をだして静かに読み始めた。
さっきは私がスマホばかり触るからって拗ねていたくせに……あんな風に甘えられてこっちの方がもっと傍で触れていたくなったのに、もうそんな雰囲気にはなりそうにない。
やはり彼の感情はちょっとしたことでまた殻にこもってしまう。こんな短い時間で信頼してもらう事は難しいのかもしれない。
それでも私は諦めることなんて出来ない。弥生さんの優しい一面もちゃんと見れた。彼にもちゃんと感情があるんだって分かってるから。
「弥生さん、私頑張るから。」
「……渚、私は本当に渚の思うような人間ではないのですよ?本当に優しい人間が妻を監禁して無理矢理抱いたりしますか?」
自棄放棄な彼の言葉にちょっとだけイラっとする。電話で何を言われたのか知らないけれど、あまりにも自分を悪く言いすぎだわ!
「私はちゃんと弥生さんに抱かれたいから、待っていたのよ?弥生さんに触れられるのが嫌な女があんな風に……乱れたりすると思ってるの?」
自分のこととはいえ最後は恥ずかしくて小さな声になってしまう。弥生さんは全然無理矢理なんて触れてない。
触れる指も唇も優しくて、本当に体の全て……つま先まで愛されたかのようだった。
「渚は私を信頼しすぎです。本当に私は……」
「弥生さんの事をどう思うかは私の自由だわ。貴方が何を言っても私は私の考え方を曲げる気は無い。弥生さんだって私の性格が《《こう》》だって分かっているでしょう?」