Don't let me go, Prince!
「何するのよ!?降ろしなさいよ、私は話す事なんて無いわ!」
私の意見は聞かず姫抱きのままの体勢でタクシーに乗せられ、恥ずかしさから弥生さんの肩を叩いてしまう。
こんな大胆な行動をする男性だとは思っていなかった。そんなそぶりは知り合ってから一度だって見せたことなんて無かったのに。
「このまま大人しく抱かれていなさい。すぐに目的地に着くから話はそれからです。」
静かに、でも反抗は許さないと言わんばかりの命令口調。いつもの話し方が特別優しい訳じゃない。でも今の彼の雰囲気はいつもとは別人だ。
目的地には本当にすぐ近くだったようで、あまり新しくはなさそうなホテルの前でタクシーは止まった。
弥生さんは私を下ろせばいいのに、そのままの体勢でタクシーを降りてホテルの中へと入って行った。
「さっき連絡していた通り、いつもの部屋にしばらく妻を泊める。不便が無いようにしてやってくれ。」
「畏まりました。四ツ谷様。」
弥生さんはここに良く来るのだろうか?彼は結婚して外泊をしたことは無い。……使っているとしたら昼間という事になる。
私は彼の休日の過ごし方を知らない。何時も朝早く出かけて夜遅くにしか帰らないからだ。……もしかしたら彼は、その時間をここで私の知らない誰かと?
連れて行かれたのは角の一つだけ離れた部屋。弥生さんがドアを開けるとそのドアはギギギッと音を立てて開いた。異常に分厚いドア……何か違和感を感じながらも声を出せないままでいた。
「今日からしばらく渚にはここで暮らしてもらいます。私が許可しない限り、渚がこの部屋から出ることは許しません。」