Don't let me go, Prince!
あちら側からのコンタクト
弥生さんは朝早くスーツに着替えて部屋から出て行った。いつもは何も言わずに出て行っていた彼が、まだ寝起きでシーツに丸まっていた私に「行ってきます」とだけ声を掛けてくれた。
10時、11時……一緒に居れると思っていた時間を一人で過ごすのは、寂しくてとても退屈。
フィットネスバイクに乗りながらただ彼を待っている……そんな毎日を我慢出来るような大人しい女じゃないんだけれどな。
それでも弥生さんが帰ってくると分かってるから、この場所で待っていられる。
シャワーで汗を流してスポーツドリンクで喉を潤していると、私のスマホが鳴った。ディスプレイを見ると弥生さん。
私は急いで通話ボタンを押し、スマホを耳にあてる。
「もしもし、渚。」
「もしもし?どうしたの、弥生さん」
彼から電話が来るなんて珍しい。滅多にかけてこない弥生さんがかけてくるなんて何の様だろう?
「さっきホテルから連絡があって、今日はその部屋の《《ちょっと》》したチェックをしなくてはならない日だったようです。渚はその時間を1階にある喫茶店で時間を潰していてはくれませんか?部屋の鍵は従業員が開けてくれますから。」
チェックとは何だろう?掃除やクリーニングは全て私たちがいる時にやってくれていたのだけれど。
「私を部屋から出してもいいの?」
「……私が帰ってくるのを待っていると言ってくれた、渚を信じようと。」
ふふ、そんな事言われなくても待ってるけれどね。少しずつ彼が私に心を寄せてくれている。それだけでこんなに嬉しい。
彼との電話が終わるとすぐに部屋のインターフォンが鳴って、私と入れ替わりに二人の作業員が部屋へと入って行った。ホテルの人のチェックではないのかしら……?
従業員に喫茶店まで案内されて、私は大好きなミルクティーを頼む。弥生さんが入れてくれるのも美味しいけれど、お店のもたまには飲みたくなるわよね?
ミルクティーが来るまでホテルの外の景色を見てボーっとしてた。
「……ねえ、お姉さん。お隣いいかな?」