Don't let me go, Prince!
まさか私に質問が無いかと言われるとは思ってなくて、返す言葉に悩んでしまう。彼自身にそんなに興味は無いけれど、彼の行動が何を意味するのかは気になる。だけど……
「私が聞いたところで、けいさんが素直に本当の事を話してくれるとは思えないんだけど?」
彼の事だ。自分に都合の悪い事はのらりくらりとかわしてしまうだろう。
「僕は嘘はつかないよ、言いたくない事は話さないだけで。でも渚ちゃんにお願いされたら、少しくらい喋ってしまうかも?」
「嘘ばっかり。けいさんはそう言ってても、さっきから目が笑ってないのよ。最初から話す気もないくせに思わせぶりな事するのは止めたら?いつも女の子にそうやって近付いているの?」
彼の話術と容姿があれば、女の子はころりと騙されてしまいそうね。それくらい彼は人の心の中に入り込むのを得意としていそうだ。
「賢い子は……嫌いじゃないよ。」
彼がぽそりと言った言葉が良く聞こえなくて聞き直そうとすると、私のスマホがテーブルの上で鳴った。ディスプレイに出た弥生さんの名前、私は急いて通話ボタンを押す。
『渚、今日の予定は終わりました。今から帰りの電車に乗るので二時間ほどでそちらに戻れると思います。』
「ええ、私はまだ喫茶店にいるけれど、チェックが終わったら部屋に戻って待ってるわ。」
『そうですか。変なナンパなどされないように気を付けなさい。』
「はいはい、じゃあね。」
丁度ナンパみたいなことをされてしまったところだったけれど、黙っておこう。
弥生さんとの通話を切って隣を見ると、そこにはもう誰も居なかった。キョロキョロと店内を見渡したが、どこにもけいさんの姿はない。
私は彼の事が少し気になったが、その後すぐにホテルの従業員に呼ばれたので部屋に戻ることにした。彼とはどこかでまた会うような気がしていた。