Don't let me go, Prince!


 戻って来たホテルの部屋。ここを出た時と何も変わりが無いようだけれど、いったい何のチェックをしていたのだろう?
 時計を見てみると弥生さんが戻ってくるまであと一時間半はある。待ち遠しいな……彼は明日から仕事でしょうし、一緒に過ごせる時間は少しでも大切にしたい。
 ベッドに寝転んでシーツを引き寄せて彼の事を思い浮かべる。

『私が頑張れたら……もう一度、渚の事を深く抱かせてもらえませんか?』

 彼が昨日言った言葉が私の頭の中で繰り返される。彼は冗談を言うような人ではないから、私はきっと今夜彼に抱かれるのだろう。

 彼に抱かれていると、私はとても弥生さんに愛されているのではないかと錯覚しそうになる。それくらい彼の触れる指先や唇は優しくて、受ける愛撫に心が震えさせられる。
 彼にもっと愛されたい。貪欲に彼からの愛情を求めようとする自分をもう隠しきれない。

 私はずっと貴方と恋がしたかったの____

 私は少し落ち着こうと冷蔵庫から飲み物を取り出して、一気に喉に流し込んだ。喉を通る一瞬、何か違和感を感じたけれどそのまま飲み干してしまった。
 飲んだ缶を確認すると、どうやらフルーツのカクテルだったよう。
 ここに来た当初はこんなカクテルは無かったような気がするが、弥生さんが自分用に買い足したのだろうか?こんな甘いお酒を?

 普段飲まないお酒で、ちょっとほろ酔いでいい気分。私はそのままフロントに電話をかけて追加のお酒とおつまみを頼む。
 すぐに従業員が部屋まで届けてくれたので、テーブルに並べて好みのお酒を一つ手に取る。そのままソファーで今度はゆっくりと飲み始める。そう言えば結婚してお酒を飲んだことは無かったわね。

 少しずつアルコールで鈍くなっていく頭の中、部屋の鍵が開いた音がした。私は缶をテーブルに置いて、少しふらつきながら弥生さんの元へと急ぐ。

「お帰りなさい、弥生さん。」

 帰ったばかりの彼にギュッと抱きつき、甘えて見せる。普段は出来ないような事も酔っていれば簡単に出来てしまうから不思議だわ。

「渚、アルコールの匂いがしますね。もしかして酔っているのですか?」


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