Don't let me go, Prince!
想い合い、そして癒したい
「……ぎさ。起きなさい、渚。」
頬を優しく撫でられて、私はゆっくりと目を覚ます。小さな窓から少しだけ差し込んでくる朝日。ここで朝を知らせてくれるのはこの少しの光と時計だけ。
「もう、朝……?」
普段弥生さんは朝に私を起こしたりすることは無かったのに、どうしたのだろう?
何も身につけていない事に気づいて、シーツを身体に巻いてそっと起き上がる。
弥生さんは既にスーツ姿で、今から仕事に出る所だったのだろう。髪まできっちりとセットされている。
昨日の夜はかなり遅かったというのに、彼はこんな睡眠時間で足りるのだろうか?
「今日はどうかしたの?何か私に言い忘れ?」
不思議に思って、彼に問う。昨夜の事で何か話そうと思ってくれたことがあるのかも。
「……いいえ。今日は渚から「行ってらっしゃい」の言葉が欲しくて。こんな事で疲れている妻を起こすような夫は駄目ですね。」
「だ、駄目じゃないわ!ああ、でも私はまだこんな格好で……」
だけど、シーツのミノムシのまま彼に近付く。服を脱がせたのは彼なんだし、仕方ない事でしょう?
「その姿もなかなか可愛いですよ?」
「弥生さんの、意地悪……んっ……」
彼から甘く口付けられて、寝起きの頭がもっとぼうっとしてしまいそうだわ。
「起き抜けのキスは好きじゃないのに……」
「すみません。」
そう言って謝る弥生さんだって可愛いわ。私は、彼の方を向いて出来るだけ優しく微笑んで見せる。
「行ってらっしゃい、私の旦那様。」
「……ええ。」
弥生さんは私の言葉に満足したようで、鞄を持って静かにドアから出て行った。