Don't let me go, Prince!
夕方スマホがピコンと音を鳴らしてメッセージを受信したことを教えてくれる。誰だろうと見てみると弥生さんからで、私は思わず嬉しくなってしまう。
『もうすぐ帰ります。朝の様に笑顔で迎えてくれますか?』
どうしてこんなに素直に可愛い事が言えるんだろう?弥生さんが少しずつ見せてくれる彼自身は、私が思っていたのよりずっと純粋で真っ直ぐな気がする。
私は一度洗面所で髪や服装が乱れていないかを確認してから玄関で彼を待つ。彼が帰ってくるのが本当に待ち遠しいの。
カチャリ、と開錠する音が聞こえてドアが開く。私がここにいることを確認した弥生さんは少しだけホッとした表情を見せてくれる。
「お帰りなさい、弥生さん。」
笑顔で迎えて彼からバックを受け取って「今日は自分が夕食を並べるから」と、彼に先に着替えるように促す。
彼が奥で着替えている間に私が作った料理と、ホテルの料理を違和感が無いように並べる。
「用意出来たわよ、着替えたらこっちに座ってね?」
「ありがとうございます、渚……?」
少し楽な格好に着替えてきた弥生さんは料理を見て不思議そうな顔をしてる。もしかして食べる前からバレたのかしら?
「どうかしたの?」
「いえ、今日は何かの記念日でしたか?」
普段作られるホテルの調理で彼がこんな風に戸惑ったことは無い。いつもの料理と何がそんなに違うのだろう?
「いいえ?どうして?」
「いえ……」
柔らかなホテルのパンとポトフとミルクのジェラートに……私が作ったチキンのクリーム煮。
彼が気にしているのはどの料理?
なかなか料理に箸を付けない彼に、私はバレないでと祈りながらもバクバクと胸が苦しくて背中に汗をかいてしまう。