Don't let me go, Prince!
「……弥生さん、食べないの?料理に何か問題でもあった?」
震えそうな声を何とか誤魔化して、なるべく不自然にならないような態度で聞いてみる。
「いえ、食べます。ただ、何かを私が忘れているのかと思っただけですから。」
「忘れてる?」
「……いえ、何でもありません。」
そう言って食事を開始する。じっくり見ている訳にもいかず、私も食事を始める。
柔らかなパンを食べて、具材たっぷりのポトフもとても美味しい。チラリと弥生さんを見ると、ちょうど私の作った料理を口にしてる。
一口、そしてもう一口……彼の箸が止まる。やっぱり、彼は気付いてしまった。
「もしかして、この料理は渚が作ったのですか?」
「ごめんなさい!やっぱり私の料理じゃ食べられなかった?」
私は立ち上がって彼に頭を下げる。
彼には何か理由があって食べられない事は何となく気付いていたのに、余計な事をするんじゃなかった。
「止めなさい、渚。取り合えず座って……ほら、どうしてそんな顔をするんです?」
弥生さんは私を椅子に座らせて、心配そうに私の顔を覗き込む。私は申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。
「だって、弥生さん……私の料理食べれないんでしょう?」
「ああ、やはり渚が作ってくれたのですか。シェフに教わったんですか?」
「いいえ、ネットのレシピで……弥生さんが好きそうなものを選んで。」
私はスマホを取り出してレシピを彼に見せる。弥生さんはその画像を見て少し驚いた顔をする。
「そうだったんですか。よく私の好物が分かりましたね。今日は好きな物ばかりだから何かの記念日だったのかと……さては、渚は《《彼女》》に協力してもらいましたね?」