Don't let me go, Prince!
弥生さんが私を信じてくれるまで、彼から目を逸らさない。わたしはもう受け入れる覚悟は出来ている、後は弥生さん次第なの。
「渚を……信じます。」
弥生さんはそっとシャツのボタンを外し始めた。緊張と不安からか震える指先で外していく彼を私はしっかりと見続ける。
パサリと音を立ててシャツを床に落とすと、タンクトップから出ている肩の部分には確かにいくつもの傷痕。
そのタンクトップも脱いで見せてくれた彼の背中には、刃物で付けられたような傷や火傷の痕……大小様々だ。
「誰が……弥生さんをこんなに傷付けたの?」
私はそっと彼の背中の傷痕に触れる。私の知らない彼の過去に何があったというのだろう?
「……父から捨てられ、母は少しずつ不安定になっていきました。私を愛しながらも憎むようになり。とても可愛がってくれる時もありましたが……泣きながら傷付けてくることもあった。それは母が病気で寝込むようになるまで続きました。」
弥生さんは肩の傷を1つ指でなぞりながら、その当時の事を思い出しているのだろう。
「……どうして逃げなかったの?」
「悪いのは母ではなく、母を身勝手に捨てた《《父》》だと思い込んでいました。私が母から離れれば、彼女には何も残らない。今にも壊れそうだった母を私は父の様に見捨てたくなかった。」
確かにお義父さんも悪いわ。だからと言って、大切な我が子を傷つけてしまうなんて……それは許されることでは無いのに。
「……母には私だけでしたし、私も母だけだった。間違った愛情だと気付いても、傷付けた後に必ず泣いて抱きしめてくれる母を突き飛ばす気にはなれなかったんです。」
歪んだ愛情を受け入れてしまった弥生さんは、彼女が亡くなるまで一方的に傷付けられてきたのだろう。
傍に居る人を深く愛しすぎてしまう彼だから……どれだけ辛くても逃げなかったのね。