Don't let me go, Prince!


 どうしてそんな事をいちいち確認するのか分からない。弥生さんがあそこを出るというのならば私は貴方に付いて行くに決まっているでしょう?

「聞かないと、分からない……?」

「いいえ、渚の答えは分かっています。しかしあの屋敷を出るという事は父からの援助はなくなりますから、今までのような贅沢や家政婦のいる暮らしをさせてあげることは出来なくなります。それを理解したうえで付いて来てくれるのか、と。」

 心配そうに私を見つめている弥生さん。彼は私の事を一番に考えすぎて、いままでずっと言い出せずにいたのでしょうね。

「庶民の娘を妻にしておいて、「贅沢出来ないけれどいいか」なんて……本当に弥生さんって気にする所がズレているわよ。そんなこと弥生さんと二人でいられるのなら平気に決まっているでしょう?」

 彼の頬をパチンと軽めに叩いて、私がそんな事が目的で彼と結婚した訳ではないと分かってもらう。
 弥生さんがあの屋敷いるのが辛いのならば、さっさと出てしまえばいいんだわ。

「本当に、何も持たない四ツ谷 弥生の妻でもいいのですか?」

「これ以上同じ質問をすると、怒るわよ?良いじゃない、2人きりで新婚生活をやり直すみたいで……きっと今度は楽しいわ。」

 あの屋敷では出来なかったことも、今度はきっと2人で上手くやっていける。
 そう思えば家政婦や大きなお屋敷なんて私にとってはそんなたいしたことではないのよ。

「楽しい……?渚はそんな風に考えてくれるのですね。」

 弥生さんの頬に添えたままの手に彼が手を重ねる。そうして静かに微笑んで頷いてくれた事に私は一安心した。

「渚……次の休みにもう一度父達に会いに行きます。今度は渚に私の隣にいて欲しいんです。お願いできますか?」


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