Don't let me go, Prince!



「ほら、弥生さんが部屋のチェックがあるとかで喫茶店で待つように言った日があったじゃない?あの日に喫茶店で神無さんから声を掛けられたのよ。」

 そういえばあの日も弥生さんはここに来たのではなかっただろうか?そして目的の相手に会えなかったと……

「神無、あの日はここにいないと思ったら、ホテルにいたのですか?また……あの人に頼まれて盗聴器でも仕掛けていたのですか?」

「……屋敷にずっと帰らないからホテルの方にも仕掛けろって、父が五月蠅くてね。まあ丁度チェックの日だったそうだから何もせずに帰るしかなかったよ。」

 やはりあの日に会う予定だったのね、神無さんと弥生さんは。
 
 私達が屋敷にずっと帰らなかったから仕掛けろって?神無さんの言い方だと屋敷にはすでに盗聴器が付けられているのだろう。
 私は何も知らずに生活していたけれど、弥生さんはそれを知っていたからずっとあの屋敷では素っ気なかったのだろうか?お父さんに深く探られないように?

「そうですか。そこまで私たちを監視して父は何が楽しいのでしょうか?」

「あの人はずっと、兄さんに反抗されるのが怖いんだよ。後ろめたいことがあり過ぎて、出来の良い息子が何か企んでないかといつも怯えている。」

 確かに弥生さんにとってお義父さんは良い父親ではないでしょうけれど。弥生さんの事を疑ってそんな風に監視しているなんて。
 そんな事をすれば親子の溝はますます深まってしまうだけなのではないかしら?

「会社を継ぐわけでもない私をですか?神無の方ならまだ分からないでもないのですけれど。」

「僕みたいな操り人形は都合がいいだけで怖くなんて無いさ。自分の意思を曲げずに進む兄さんのような人が怖いんだ。」

 操り人形って……神無さんは自分の今の状態を諦めているようで、つまらなさそうに笑う。
 弥生さんにも問題が色々あるけれど、神無さんももしかしたらかなり深い闇を持っているのかもしれない。

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